UnBooks:やい、元LTA
ぼくはアカウントをブロックされた。だれのせいでもない。ぼくが悪い。
えらい人の言うことをきかないで、気に入らない記事をあらしまわった。
トイレから出てきたら、そのりれきはどこにもない。手品みたいに真昼のパソコンから消えてしまった。
「だらしがないったらありゃしない。」
母さんに話したら、母さんはかんかんになっておこった。
「アカウントをブロックされたからって、すぐ新しいアカウントを作れると思ったら、大まちがいよ。」
母さんは、それきり、アンサイの話はしなくなった。
次の日、学校から帰ると、いつものようにのぶちゃんが遊びに来た。
いつものようにアンサイのアイデアを練っていた。
いつものようにアンサイのアイデアを練ったまま、ベルを鳴らしてぼくをよんだ。
ぼくは、いつものようにげんかんの戸を開けて出ていった。
「ネカフェへアンサイやりにに行くよ。早く、早く!」
けれど、ぼくは、のぶちゃんといっしょに行かなかった。行かなかったのではなくて、行けなかった。
ブロックやぶりは学校で禁止されていたし、ネカフェまで歩いていくには一時間かかった。
「じゃあな。」
のぶちゃんは、行ってしまった。
ぼくは、自分のネタで笑いながら角を曲がるのぶちゃんを、見送った。
お日様は、ぼくの頭の真上にある。一日は、やっと半分終わったところだ。アカウントなしで、あとの半分をどうしよう。
ぼくの家の隣の原っぱを、お日様が明るく照らしている。日かげに立っているぼくにはまぶしく見える。
まるで、白紙化されたページだ。これからしっ筆が始まるみたいでもあるし、もう消されてしまったみたいでもある。
ぼくは、原っぱへ入っていった。
スマホで投こう記ろくを見てみると、あらしまわったページが出てきた。
ちぇっ、あらしなんかしなければ、ぼくは今ごろネカフェでしっ筆していただろうな。ぼくがいなくて、だれがバカをやっているんだろう。こんなアカウント、すててしまえ。
ぼくは、最後にボロクソ書いてアンサイをやめてしまおうと、自分のトークページを開いた。
すると、ぼくはだれかの横目を感じた。
ぼくを見ていたのは、一人の元LTAだった。
「やい、ブロックされていい気味だぞ。」元LTAの横目はそう言っていた。
生意気な元LTAをおどろかせてやろうと、ぼくは元LTAの書いたページを次々バカにした。
ナイスな判断だ。矛先はあちこちに向いた。
けれど、それだけではなかった。あちこちに向いた矛先はぼう走して、元LTAにぼう言をはいてしまった。
ぼくは息をのんだ。
アンサイ上に、元LTAの数字だけがのこった。のこった数字はしばらくりれきに残っていたけれど、やがてなくなった。
ぼくは投こう記ろくを呆然とながめた。
なんて原っぱは静かなんだろう。世界じゅうの人たちは、みんな自分のアカウントで、アンサイへ遊びに行ってしまったんだ。世界じゅうは空っぽ。ぼくは空っぽな世界のまん中に、ひとりぼっちで立っている。
アンサイが日本にやって来た日、明るいソフィアの下で、ぼくはのぶちゃんと友だちになった。
あの日も、ぼくはアカウントから投こうしていた。
あおってるやつをつりに行った日、けいじ板で、ぼくはのぶちゃんと待ち合わせをした。
あの日も、ぼくはアカウントから投こうしていた。
一発ネタ、二番せんじ、三文記事、いろんな記事の出てくるおまかせ表示を、ぼくはのぶちゃんとどこかへ急いでいた。
あの日も、ぼくはアカウントから投こうしていた。
冬休みに入ったさいしょの日、ぼくはのぶちゃんと久しぶりにアンサイへ遊びに行った。
永久にアンサイクロブレイクした利用者がねむる、即時削除された記事がねむる、まだ見ぬユーモアがねむるアンサイを、ぼくとのぶちゃんはいつまでものぞきこんでいた。
あの日も、ぼくはアカウントから投こうしていた。
一か月たってから、ぼくのアカウントがふっかつした。えらい人にたっぷり叱られて、もどってきた。
その日から、ぼくは学校から帰ってくると、すぐにパソコンの前に行くぼくになった。一度遊びに行ったら夕方まで現実に帰らない、アカウントをブロックされる前のぼくになった。
一か月も二か月も、あっというまにすぎた。
その日は、のぶちゃんがなかなか家に来なかった。
ぼくは待ちきれなくて、となりの原っぱでのぶちゃんを待った。
すると、ぼくは、だれかの横目を感じた。それは、一人のすっかり改心した元LTAだった。
ぼくはしっ筆する手をとめた。
元LTAは、ぼくに、ようやく許された作りたてのアカウントを投げ出して、「見ろよ!」というように、横目でぼくを見ている。
「見ろよ!」
ぼくもあいさつがわりにようこそメッセージを送った。
「おうい。」
のぶちゃんが、タブレットPCを持ってやってきた。
「おうい、ここだよ。」
ぼくは、原っぱを出た。
ふり返ると、元LTAはもういなかった。元LTAのいない原っぱがまぶしかった。
やい、元LTA、せっかく取れたアカウント、なくすなよ。