UnBooks:あなたが去りし後の世界 〜やめたゲームの後のあと〜
あなたは今までにどれくらいのゲームをして来ましたか?
そのうち、どれだけのゲームをクリアしましたか?
あるいは、クリアできなかったゲームは?
続けようと思って、しばらくして投げ出してしまったゲームは?
あなたがゲームの中で出会った人や、人でないさまざまなもの達は、あなたに見られていることも……いえ、自分がゲームの中の存在であることも気付かずに、今も暮らしているのです。ファミコンのカセットにも、PCエンジンのカードにも、セガサターンやプレステのCDの中にも、一つ一つにあなたが見てきたすべての世界が入っているのです。
ところがそれらの世界の多くは、クリエーターたちが創った後、長い、長い年月が経った今も、住人たちが望む結末を迎えられていません。彼らはゲームの持ち主であるあなたの見えざる手の助けを、今も求めています。
確かに彼らにはあなたの姿は見えません。しかし自分たちの変わり映えのしない世界に変化をもたらしてくれる“なにか”の存在をいつも信じています。
そんな彼らの声に、耳を傾けてみませんか?
世界では――[編集]
――2000万人以上のピーチ姫が、助けに来ないヒゲに愛想を尽かしてカメと仲睦まじく暮らしています。最悪の場合、結婚させられたままです。
――2万人の宿屋の主人が「きのうはおたのしみでしたね」と言うのを待っており、5万人のサマルトリア王子が未だに迷い続けており、そもそも16万人の祖先がまだ到着していません。
――5万人のリップルスターのロリ女王様は目つきが悪いままです。カイショウナシのピンク玉のせいです。同じくカイショウナシのせいで、7つある虹のしずくが集まらないので7万人の目立ちたがり屋の黒幕は正体を現せずにいます。
――8万人の市長の愛娘はまだ捕まったままですし、かと思えば9万人の刑事は目の前にいる犯人の服を脱がすこともできていません。
――5万人の平景清が京都にたどり着けないまま力尽き、8万人の平将門はミレニアムを迎えても復活できないでいます。
――3千人のジョゼットが、ギジンと人間の幸福を、ギジンの存在意義を探してあなたのナビゲートを待っています。彼女はあなたの存在を感じ取れる希有な存在です。
――6千人の鈴木さんはいい加減ミカンをなんとかしたいと(たぶん)考えていますし、3千人の森川君はあなたからウンチの(食べる以外の)利用法を教えてもらいたいと思っています。
――桂文珍は今までに6万人ほど殺されていますが、その犯人の大半はまだ捕まっていません。また、吉本興業からは1人分しか香典はでていません。
――5万人以上のランディが、まだ村に入れてもらえていません。ボタンを連打し過ぎてはいませんか? 15万人のルッカは、あのチャンスを生かせなかったことを後悔しています。ボタンを落ち着いて押しましょう。
――3万島以上のコホリント島が未だに地図上に残っておりますが、島内観光の思い出を残しておきたい人もいらっしゃいますでしょうから無理強いはしません。
――エクスデスは倒しても、15万柱のしんりゅうは未だ宝箱に閉じ込められたままであり、それとほぼ同数のロボットが命令に従って徘徊し続けています。結末は悲しいものですが、それでも運命を受け入れることが大切だと彼らは思っています。
――7万もの都市が、犯罪、雇用、公害、竜巻や地震、モンスター、メルトダウンの危機から立ち直れないでいます。贈られるはずだったヒゲ像は既に完成しているというのに。
――9千機のA-9機は、序盤で現れた謎のバイド体の正体を知りません。
――67万人のセシルが実の兄と兄弟喧嘩中で、66万人のカインはまだその兄弟喧嘩に巻き込まれていい迷惑をしていますが、まだ幼女でチョコボと戯れているリディアは7千人しかいませんし、まだ1人ぼっちであるセガサタは0人です。
――80万人のワードナはあれから執務室に籠もりっきりです。寂しがり屋なので、ウサギに気を付けつつ早急に。
さらに――
――200万体のファミリーコンピュータが夢の島の肥やしになり、4万体のスーパーファミコンが群馬県の山中に捨てられました。
――600万体のプレイステーションには既にソニータイマーが発動しましたが、5万体のドリームキャストはシェンムー信者の部屋の押し入れの奥に保管されています。
――400万体の初代ゲームボーイはまだ実家の学習机の奥に眠っていますが、500万体のゲームボーイアドバンスはDSの代わりに処分され、近所のコンビニにあるおーいお茶の入れ物になっています。
そして――
――70億人以上の人間が、この世界がゲームの中であることを知らずに今日も生きている……のかもしれません。
どうか、過ぎ去りし日に冒険したあの世界の事を、ときどき思い出してあげて下さい。そしてたまには、彼らが幸せのうちに日々を過ごせるよう、手助けをしてあげて下さい。
それが、今も彼らが生き続けているというなによりの証拠なのですから。
![]() 本項は第10回執筆コンテストに出品されました。
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